2015年8月
【目的と活動内容】
2014年1月に理事会メーリングリストにて「インバウンド委員会」の設置が正式に決定し、2014年度から活動を開始した。委員会は、東京オリンピック・パラリンピックまでに、外国人および日本語ができない人を対象に、安全で安心できる医療ケアを提供するため、実現可能で持続可能なシステムを提言することを目的とする。
日本在住の外国人、観光を目的に来日する訪日外国人、医療ツーリズムを目的に来日する外国人はもとより、海外から帰国する日本人や、日本国籍をもつが日本語ができない人も対象としている。
具体的な活動内容として、以下のような例示が想定されている。
・感染症対策(訪日外国人および帰国日本人が持ち込む感染症)
・異文化理解(在住外国人や訪日外国人に対する保健医療ケア)
・多言語支援(日本語が通じない患者に対する医療支援)
・医療通訳士(身分保障や認証および派遣システムや遠隔システムの検討)
・Mass Gathering Medicine(国際スポーツ大会や国際博覧会における集団災害医学)
【設立時委員会メンバー】(2014年4月現在)
井田 健(公立甲賀病院) 遠藤 弘良(東京女子医科大学)
小笠原 理恵(大阪大学) 狩野 繁之(国立国際医療研究センター)
小林 米幸(小林国際クリニック) 中村 安秀(大阪大学)(委員長)
波川 京子(川崎医療福祉大学) 西山 利正(関西医科大学)
三島 伸介(りんくう総合医療センター)
南谷 かおり(りんくう総合医療センター)
村松 紀子(医療通訳研究会) 山澤 文裕(丸紅)
【活動報告】
2014年7月の
第18回日本渡航医学会学術集会(名古屋:宮津光伸大会長)において、「インバウンド委員会・キッフオフシンポジウム」を開催し、約90名の参加があった。
2014年11月の
第29回日本国際保健医療学会・第55回日本熱帯医学会・合同大会において、「在住及び訪日外国人に対する医療ケア:安心して東京オリンピック・パラリンピックを迎えられるように!」という日本渡航医学会との協働シンポジウムを開催し、当委員会メンバーである濱田篤郎東京医科大学教授、井田健公立甲賀病院顧問に講演をいただいた。立ち見の方もいる盛況のなか、両学会の会員から活発な議論が行われた。また、医療通訳士が主体的に認証課題に取り組むための意見交換や会合の機会を設定し、当事者主体の課題分析を実施した。
2015年度は、
第19回日本渡航医学会学術集会(東京:遠藤弘良大会長)において、「言葉と文化の壁をこえる国際医療交流:医療通訳士が活躍できる環境をどう創るのか?」というミニ・シンポジウムを主催し、厚生労働省や東京都の関係者も交えて活発な討議を行った。
2016年度は、
第20回日本渡航医学会学術集会(倉敷:中野貴司大会長)において、「インバウンド医療の未来像:外国人が安心して受診できる病院に変えよう」というシンポジウムを主催した。
講師の先生方:森田直美さん(東京医科大学、多言語社会リソースかながわ:MICかながわ)、吉川絵理さん、(大阪大学医学部附属病院国際医療センター)澤田真弓さん、(一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ理事)。なお、ファシリテーターは、村松紀子さん(医療通訳研究会)と中村安秀(大阪大学大学院人間科学研究科)であった。
在住外国人や訪日外国人に対する医療において、多言語による医療支援と異文化理解への対応は喫緊の課題である。今回のシンポジウムでは、急速に増大する外国人医療の現場から声をあげていただくことを主眼とした。大学病院での先駆的な取り込みの現状と将来展望についてお話しいただき、日本人医療者と外国人患者が交錯する医療現場での通訳者の役割について語っていただき、マイナー言語や地方病院のニーズを考慮すると今後日本で普及するに違いない遠隔医療通訳サービスの将来像を紹介いたたき、会場からも活発な討議が行われた。
また、全国の多くの大学病院でインバウンド医療に関する国際医療部門が設置され、2016年12月には「国際臨床医学会」の設立総会が予定されている。今後は、医療通訳士の認証制度などについて、早急な実施に向けた議論を深めることになろう。
文責:委員長 中村安秀(大阪大学大学院人間科学研究科)